アメリカに渡航・移住する場合、現地でけがや病気になったときのことを心配する人も多いのではないでしょうか。アメリカは医療費が高額なことで知られており、海外旅行中に病院を軽く受診しただけで数百ドルを請求されるケースもあります。
アメリカの医療制度は日本と全く異なるため、渡航・移住を考えている人はあらかじめアメリカにおける医療の受け方を知ることが大切です。
今回は、アメリカと日本の医療制度における違いから、医療費相場や医療保険の重要性、アメリカでの医療の受け方までを徹底的に解説します。
1.アンケートから見るアメリカの医療制度のイメージ
アメリカと日本の医療制度で最も大きな違いは健康保険や国民保険による皆保険制度がないことです。そのためアメリカで手術などに伴う突然の医療費の増大を防ぐためには、自ら適切な医療保険に加入しておかなければいけません。そのため、公的な保障制度により医療費が30%まで削減され、高額医療費の負担を回避できる制度がある日本と比べると、保障が薄いと考える人が多いのです。
日本からの渡航者が医療制度を知らずにアメリカで急病などにより医療サービスを受けて、高額な医療費を課せられて支払いに困るという事例もあります。アメリカでの生活や長期滞在を検討している人は、アメリカと日本の医療制度の違いをよく理解して、必要な対策を取っておくのが望ましいといえるでしょう。
2.アメリカの医療制度|日本との違いは?
公的医療保険制度 | |
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アメリカ | 日本 |
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(職域保険および地域保険) |
自己負担 | |
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アメリカ | 日本 |
加入保険によって |
原則3割負担 |
かかりつけ医の登録制 | |
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アメリカ | 日本 |
あり |
なし |
アメリカの医療制度が日本と大きく違う点は、医療保険の加入義務の有無です。ここからは、アメリカの保険制度について、方式と種類を詳しく解説します。
2-1.日本とアメリカの医療制度の概要
よって、通院回数が多くなったり、手術・入院で高額な医療費がかかったりする場合でも、国民が医療機関の窓口で支払うのは、最大でもかかった医療費の3割のみ。これにより、誰でも気軽に、安価に高度な医療にアクセスできます。日本の公的医療保険制度は世界トップクラスで、2000年には世界保健機関(WHO)に世界一と評価されました。
対して、アメリカの医療保険制度は日本とは大きく異なります。アメリカの公的医療保険制度は低所得者や障害者、65歳以上の高齢者のみが対象で、現役世代の医療保険は民間にゆだねられています。
さらに、アメリカにおける医療は日本よりもビジネス的な側面が大きく、すべて自由診療です。そのため、医療費は日本では考えられないほど高額になります。世界一高いともいわれている医療費によって、民間の医療保険の保険料も高騰。多くの国民が保険料を支払えず、無保険状態です。結果的に、日本のように気軽に医療にアクセスできない状況にあります。
保険制度の方式や自己負担額の違いについては、次項から詳しく解説します。
2-2.保険制度の方式・種類
アメリカの保険制度は、「公的医療保険(メディケア・メディケイド)」と「民間医療保険(HMO・PPO・POS)」の2つに大きく分けられます。
○公的医療保険(メディケア・メディケイド)
アメリカで提供されている公的医療保険は、メディケアとメディケイドの2種類があります。メディケアは65歳以上の高齢者および障害者等が対象であり、メディケイドは一定条件を満たす低所得者向けの保険です。日本における国民皆保険のような社会保障制度がアメリカにはなく、国民に対する健康保険加入義務も実質的にありません。
○民間医療保険(HMO・PPO・POS)
民間医療保険は、民間の保険会社が提供している保険商品です。民間であるため、会社によって保険料やサービス内容に違いが見られます。主な医療保険プランであるHMO・PPO・POSについて、それぞれの特徴を簡単に紹介します。
HMO |
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HMOではかかりつけ医を最初に決めて、病気・けがの場合は基本的にかかりつけ医を受診するプランです。保険料が安く設定されているものの、原則として保険会社のネットワーク内にある医師・医療機関を利用しなければ保険診療が適用されません。 |
PPO |
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PPOはかかりつけ医を決めず、受診する医師を保険会社のネットワーク内で自由に決められます。自己負担額は高くなるものの、ネットワーク外の医師・医療機関を利用することも可能です。保険料はHMOと比べて高く設定されています。 |
POS |
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HMOとPPOのハイブリッドといえるプランであり、かかりつけ医は決めるものの、ネットワーク外の医師・医療機関を利用することもできます。保険料もHMOとPPOの中間あたりです。 |
2-3.自己負担額・割合
アメリカの民間医療保険は、ネットワークの内外で自己負担額が大きく変わることに注意が必要です。
ネットワークとは、保険会社と契約している医療機関のことで、自己負担額はネットワーク内であれば安く、ネットワーク外では高くなります。日本における医療保険のように、どの病院を利用しても自己負担額が3割とはならないため、注意しましょう。
また、治療内容が保険会社のカバーする範囲であるかどうかによっても、自己負担額は異なります。たとえば歯科治療をカバーしていない保険プランを選んだうえで歯医者を利用した場合、保険適用がされないため、自己負担額は医療費のほぼ全額です。
2-4.かかりつけ医
アメリカにおける多くの医療保険では、かかりつけ医の設定が必要とされています。保険会社のネットワーク内でかかりつけ医を選び、医療機関にかかる際はかかりつけ医を利用するシステムです。
アメリカでは、緊急時を除き、病気・けがの受診や健康診断、生活習慣病などの健康相談もかかりつけ医を受診することとなります。かかりつけ医ではなく専門医に受診してほしい場合も、まずはかかりつけ医を受診して、専門医への紹介状を書いてもらわなければなりません。
3.【アメリカ】医療費の料金相場
アメリカの医療制度を利用する場合、日本に比べて医療費が高額となることを覚えておきましょう。アメリカの病院で入院する場合は、利用する室料と入院費用だけでも、下記のように高額な医療費が発生します。
- 室料:1日あたり2,000~3,000ドル
- 入院費用:1日あたり10,000~20,000ドル
一例として、ニューヨークで盲腸の治療を行った場合は、入院日数が1~3日で14,000~41,000ドル程度かかります。また、医療費は診察料・施設利用料・検査料・調剤技術料などが別個で請求されるため注意してください。
4.医療制度や医療費で見える「アメリカの医療提供体制」
アメリカの医療制度や、医療費の料金相場を理解すると、アメリカならではの医療提供体制が見えてきます。
渡米を考えている人は、アメリカの医療提供体制について理解を深め、けがや病気になった際もスムーズに対処できるよう準備しておきましょう。
ここからは、アメリカの医療提供体制における4つの特徴を、それぞれ詳しく解説します。
4-1.医療費が高い
医療費が高いことは、アメリカの医療提供体制における最も大きな特徴です。
アメリカ保健福祉省のメディケア・メディケイド・サービスセンターによると、2018年度におけるアメリカ国民1人あたりの医療費は11,172ドル
となっていました。日本円に換算すると、118万円程度です。
同じく2018年の日本国民1人あたりの医療費が34万円程度である
ことと比較すると、アメリカの医療費は非常に高いことが分かります。
また、アメリカでは救急車を利用する場合に料金が発生します。救急車の利用料金は都市によって異なるものの、300~500ドル程度が相場です。医療における患者負担が大きいため、保険加入者でない場合は自己負担額が高くなってしまいます。
4-2.国民皆保険は存在しない
日本は、すべての国民が何らかの医療保険に加入する「国民皆保険制度」がとられています。しかし日本と違って、アメリカは国民皆保険が存在していません。
アメリカの国勢調査局「Census Bureau」が発表した2019年のデータによると、アメリカでは8%が健康保険に未加入
でした。
出典:United States Census Bureau「Health Insurance Coverage in the United States: 2019」
弱者が苦しむかのような構図は、アメリカでも長い間社会問題となっています。しかし、他の先進国のような状況に改善する様子も見られません。
このように、日本ではほぼ自動的に保険に加入できる一方で、アメリカは職場で提供される医療保険に加入するか、自分で医療保険を探して加入する必要があることを覚えておきましょう。
4-3.民間医療保険が医療保険の中心となる
アメリカにおける医療保険の中心は、民間保険会社が販売する民間医療保険です。2019年のデータによると、アメリカ国民の68%が民間医療保険に加入
しています。
出典:United States Census Bureau「Health Insurance Coverage in the United States: 2019」
アメリカで医療保険に加入する際は、民間医療保険のタイプや情報を把握しなければなりません。民間医療保険の保険料やカバーできる治療範囲は、利用する保険会社・保険内容によって千差万別です。
また、アメリカの民間医療保険にはHMO・PPO・POSといった種類分けもあり、種類ごとに保険会社のネットワーク内外における自己負担額も変わります。
4-4.保険に費用をかけた分だけ医療の質が高くなる
アメリカの民間医療保険は保険料によってサービス内容が異なり、保険に費用をかけた分だけ医療の質が高くなることが特徴です。また、高い保険料をかけるほど、病気・けが等で医療機関を受診した際に自己負担割合を軽減できる仕組みとなっています。
そのため、病院に支払う診療費用・治療費用を抑えつつ質の高い医療を受けたい場合は、普段から高い保険料を払わなければなりません。アメリカの民間医療保険は日本における生命保険や自動車保険と近く、いざというときに自分や家族を守ってくれる保険システムです。
5.アメリカ医療のメリット
5-1.ホームドクター制度で自分と合う医師を主治医に決められる
ホームドクターの専門外のケガや病気であっても、まずは主治医に相談して症状にあった専門医を必要に応じて紹介してくれます。ホームドクター制度のメリットは、
・自分の体質・病歴などを加味して診断してくれること
・自分と相性の良いドクターを主治医にできる
・信頼できる医師から他分野の医師を紹介してもらえる
などがあります。
自分で対象の医師の中から自由にホームドクターを選ぶか、保険会社・契約プランによっては、会社側から医師を数人指定され、その中からホームドクターを選ぶこともあります。
もし、紹介された医師が合わなければ別の医師や病院でセカンドオピニオンを受けたり、保険会社と相談してホームドクターを変えてもらうこともあります。
5-2.治療前に見積りで案内してくれる
どの治療にどれくらいかかって、総額はどれくらいなのか・・・を事前に知ることができます。また、アメリカの病院は分割での支払いもできるので、自己負担額が高かったとしても無理のない範囲での支払い計画を立てることも可能です。
5-3.プランによっては眼鏡やコンタクトレンズも保険対象に
適合プランに加入していれば、自己負担ほぼなしでコンタクトレンズを購入できます。日本ではコンタクトレンズや眼鏡は「治療の範囲ではない矯正器具」と判断されるため、製品購入時は全て自己負担する必要があります
6.アメリカ医療のデメリット
しかし、やはり皆保険制度のある国からすると考えられないほどのデメリットがあることも知って置かなければなりません。
6-1.病院が自由に選べない
州ごとに独立した制度は医療保険にも適用されており、保険会社が提携している医療機関は地域単位で決められてしまいます。
先ほども解説した通り、アメリカの民間医療保険会社の代表的なプランにはHMO・PPO・POSの3種類があります。HMOプランに加入している場合は、ネットワーク外の医療行為は全額自己負担です。
PPOプランの場合は、ネットワーク外の病院でも保険は適用されますが自己負担額の割合は高くなります。ハイブリッドプランのPOSも、ネットワーク外の病院を利用すると自己負担額が高額になります。
そのため、旅行や出張先で急病に倒れたり、ケガをしてしまうと保険に加入していても多額の治療費を自己負担しなければならないケースも多いのです。
日本では国内であれば基本的にどの病院に行っても自己負担3割が適用されるので、大きなギャップを感じるかもしれません。
最近では、ネットワーク外では救急のみ保険が適用されるEPO・ネットワークが非常に限定されたPPOなどもあり、この複雑さもアメリカ医療制度の難点と言えるでしょう。
6-2.救急車は有料
地域によって金額は異なりますが、大体30,000円~70,000円ほどかかるのが一般的です。
救急車の料金も保険適用されるケースが多いですが、公営の救急車を使うと本人の保険契約には関係なく一番近い病院に搬入されることがあります。もちろん全てではありませんが、特定の病院を利用したい場合は民営の救急車を利用する人も多いです。
ただし、救急車の使用料は民営の方が高額なので、その点も考慮する必要があります。
以前『アメリカの平均年収は700万円!?日本との違いや社会的背景について』でもご紹介したように、アメリカの高収入な職種上位を各部門の医師が占めていますが、職種ごとの平均報酬の高さも医療費に関係しています。
6-3.契約内容によって医療サービスが異なる
プラン内容によって、
・病院のネットワーク
・ネットワーク外での保険適用
・年間自己負担額の上限
・免責額
・自己負担率
・コーペイ(窓口で支払う自己負担額)
・西洋医療以外の保険適用
・妊娠中の保険加入
などの内容が異なります。
6-4.すぐに診察が受けられない
かかりつけの病院に連絡をして予約を取ってもらい、その日時でないと診察してもらえません。
病院によっては最短で1週間待たされることもあるようです。このアクセスのしにくさが、病院から人々が遠ざかる理由の1つでもあります。
インフルエンザ等ですぐに見て欲しい場合は、かかりつけ医の隙間時間に診てもらえないか相談したり、救急処置ができる病院を利用するなどの方法があります。
予約なしで救急処置をしてくれる小規模なクリニックを「Urgent Care Walk In」と言い、「お住まいの地域名+Urgent Care Walk In」で検索すれば最寄のアージェンケアが調べられます。
新型コロナウイルスのワクチンを摂取する場合は、無料で受けられます。病院以外でも大手のドラッグストアやスーパーなどで予約なしでワクチン摂取ができるので、こちらのコラムで詳細をご確認ください。
『アメリカで新型コロナワクチンを受けられる場所と方法』
7.アメリカに訪れる際は医療保険に加入しておかなければ不便!
海外駐在員としてアメリカに住む場合、会社が医療保険を用意してくれることもあるでしょう。しかし、健康で労働年齢の方はまず政府の提供する健康保険は受けられないと考えることが無難です。そのため、会社からの健康保険の提供は、運が良いと言っても過言ではありません。
また留学生であれば、事前に医療保険と物損保険がセットになっている「留学生保険」に入っておかなければ大学が受け入れてくれなかったり、寮やアパートにも滞在できなかったりするケースも多々あります。
気をつけるべきなのは、現地で就職されている方です。会社が用意した医療保険を利用するか、または会社が用意していない場合は実費で加入する必要があります。結婚しており働いていない場合は、パートナーの医療保険に入れてもらうか、実費で入る必要があることを覚えておきましょう。
しかし、個人での医療保険への加入は非常に高額となるため、おすすめではありません。
7-1.個人での医療保険の加入をおすすめしない理由
アメリカの医療保険は高額であるうえ、大した医療が受けられないプランも多々あります。そのため、アメリカでは風邪くらいならば診察を受けずに、多少の高熱でも我慢して市販薬で対応する人が多くいます。この状況は、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた際に検査や治療の遅れを助長した要因でもあり、アメリカ医療の難点と言えます。
掛け金と治療内容のバランスの悪さから、健康な人の中には、「病院にはかからないだろうし保険に加入しない方が経済的に良い」と考え、自ら無保険を選ぶ人も多くいます。
またアメリカにも、無料で健康保険を受けられる「貧困層に向けた制度」がありますが、相当な低所得でなければ基準を満たせません。医療保険に入りたくても加入できないという貧困層が多いことも、アメリカで無保険者が多い原因のひとつです。
8.アメリカでは保険証ではなく医療保険カードを使う
英語では「medical insurance card」、またはシンプルに「insurance」と呼ぶことも多いです。
病院に行く時だけではなく、予約する時もこの医療保険カードが必要です。医療保険カードには、
・保険会社と協会
・ネットワーク
・氏名
・保険番号
・ID
・グループナンバー
などが記載されています。
電話で病院に予約する際は、まず保険会社の協会名とネットワークについて聞かれます。
対応していなければその病院を保険適用で利用することはできません。
8-1.日本の保険証は使えないが海外療養費は申請可能
返還される金額は日本で同様の治療を受けた場合の費用を基準とするので、実際に支払った金額の7割(保険者負担分)が返ってくるとは限らない点に注意しましょう。
海外療養費制度を利用する場合は、
1.渡航前に国保給付係で診察内容明細書・領収明細書の用紙をもらうか印刷して帯同する
2.海外の病院で領収書をもらい、診察内容明細書・領収明細書に記載してもらう
3.帰国後に国保給付係の窓口で診察内容明細書・領収明細書と領収書を持参して手続きをする
という手順が必要です。
申請に必要なものや窓口の名称は自治体によって異なる可能性があるので、お住まいの役所の公式ホームページをご確認ください。
9.アメリカの医療保険に加入する前に要チェック!「コーペイ」とは?
健康保険に加入すると、聞き慣れない言葉がいくつか登場します。その中でも「コーペイ(Copay)」は非常に大切となるため、必ず理解しておきましょう。
コーペイとは、お医者さんにかかる際、事前に窓口で払う診察料です。保険証やプランの契約内容に書かれているため、忘れずにチェックしましょう。
日本では診察後に会計として、診察料や検査費など、その日にかかったすべての費用を払わなければなりません。一方でアメリカは、窓口でコーペイを払ったあとで診察・治療をし、医師から帰宅の許可が得られるとそのまま帰ることが可能です。その日の検査費などは、後日に請求書が送られます。
10.【ケース別】アメリカでの医療のかかり方
日本では、具合が悪くなったときには近くの病院・クリニックに駆け込んでも診てもらえることができます。しかしアメリカは、そうではありません。
ここからは、アメリカでの医療のかかり方をケース別に紹介します。アメリカで突然具合が悪くなったとき、かかるべき医療にきちんとかかるためにも、しっかり把握しておきましょう。
10-1.まずはかかりつけ医を設定する
前述のとおり、アメリカにおける多くの医療保険では、かかりつけ医の設定が必要です。かかりつけ医は「PCP(Primary Care Physician)」とも呼ばれます。
日本のように、風邪気味だからといって近所の病院やクリニックに予約なしで行っても、アメリカでは診てもらえません。アメリカに住むことが決まった際は、なるべく日本にいる時点でアメリカのかかりつけ医を設定しておく必要があります。
10-2.内科以外の専門医にかかる場合
「専門医」とは、通常の内科ではない、皮膚科・外科・耳鼻科・アレルギー科・産婦人科などのことです。
日本で内科以外の先生にお世話になっていて、アメリカでも引き続き診察・治療を続けたい場合も、まず内科医にかかりつけ医となってもらい、さらにかかりつけの専門医を設定する必要があります。内科医と専門医が情報をシェアしやすいと安心なため、PCPと同じネットワークや系列の病院に所属する医師を選ぶことが理想です。
また、専門医にかかる際のコーペイは、通常のかかりつけ医よりも少し高いことを覚えておきましょう。
10-3.ER(救急医療)にかかる場合
ER(Emergency Room)は、大けがや急な症状が起きた場合にかかる「救急医療」のことです。
大けがや発作など緊急を要する症状の場合は、救急車を呼ぶか、自分でERに行くかがすすめられています。すでに保険に入っていてかかりつけ医に一時的な指示を仰いで判断したい場合は、時間外でもかかりつけ医のオフィスに電話することで、医師やネットワークの医師がどうすればいいか教えてくれることもあります。
ERの利用は非常に高額で、保険に入っていても高額な実費分が請求されることがあります。保険に入っている人は、保険会社に電話をし、どこのERなら費用がカバーされるのか確認しておく必要があります。
また、貧困で健康保険に入れていない人がERに行った場合、その医療費はチャリティが負担してくれる地域もあると言われています。
10-4.かかりつけ医がいない・救急医療ほどではない場合
「急な発熱などで診察を受けたいけれど、かかりつけ医がいない」もしくは「かかりつけ医の時間外・ERに行くほどの症状でもない」という場合は、アージェントケアに行きましょう。
アージェントケアとは、かかりつけ医とERの間のような存在です。アージェントのコーペイも、かかりつけ医よりも割高となります。
10-5.処方箋の薬を購入する場合
診察を受けて薬が処方された場合は、医師が処方箋を書いて渡してくれるパターンと、指定の薬局にデジタルで処方箋を送ってくれるパターンの2つがあります。
いずれのパターンも、薬局で薬を受け取る際には再度保険証を見せる必要がありますが、保険証を見せれば保険適用額で薬を購入することが可能です。しかし、医療保険のプラン次第では大した割引が受けられずに、高額となるケースもあります。
このような場合は処方箋を薬局に出す前に、Good RXなどの割引サイト・アプリから、どの薬局でどれほどのディスカウント価格となっているか確認すると良いでしょう。
11.日本からアメリカへ訪れる際にしておくべき「医療に関する準備」
ここまで日本からアメリカへの移住が決まった際は、あらかじめ医療保険に加入しておくべきことを紹介しました。しかし、しておくべき準備はそれだけではありません。
よりスムーズにアメリカの医療にかかるためには、お薬や検診、ワクチンの履歴を英語に翻訳することと、かかりつけ医を設定することが必須です。
ここからは、医療保険に加入したあとにすべき「医療に関する準備」を詳しく説明します。
11-1.お薬・検診・ワクチンの履歴を英語に翻訳する
これまでに処方されたお薬や検診、さらにワクチンの履歴を英訳した文書を用意しておきましょう。特に、子どものいる方や既往症がある方は重要な準備です。
日本には幸い母子手帳がありますが、アメリカには全国共通の母子手帳のようなものはなく、自分で記録する必要があります。
ワクチンや成長記録の英訳は、母子手帳を読みやすい大きさにコピーして、日本で受けた予防接種の名前、日にちなどすべての項目を英語で書き込めば問題ありません。医師に渡す前に、このコピーを持って保管しておきましょう。
既往症がある方は、検診や治療の記録から、手術歴や処方されたお薬の記録まで英訳して、スムーズに医師に提出できるよう備えることが必須です。
11-2.かかりつけ医を設定する
かかりつけ医は、どの病院の医師でもなってくれるわけではありません。新患を受け付けている医師で、かつ自分の健康保険のプランをカバーできる医師である必要があります。
かかりつけ医を探すときは、保険会社のホームページが役立ちます。保険会社のホームページでは、自分の住まいの周りにどれだけ候補となる医師がいるかのリストが表示されます。
リスト内から自分に合った医師をチェックして、記載されている電話番号に電話をかけ、かかりつけ医になってもらえるか打診しましょう。医師のリストがホームページから入手できない場合は、保険会社に電話をすることで、リストを送ってもらえます。
健康に問題がない場合、かかりつけ医を設定するための初診には数カ月の期間がかかることもあります。具合が悪かったり、早急に治療の引き継ぎが必要になったりした場合は、なるべく予約を早めてもらえるよう、事情を詳細に説明しましょう。
12.日本からアメリカへ訪れる際に知っておくべき「医療に関する注意点」
日本からアメリカへ渡航・移住する場合は、医療に関する準備を行うだけでなく、医療に関する注意点も知っておくことが重要です。日本とアメリカでは医療制度における相違点が大きいため、注意点を知らないまま渡米すると、いざ医療を利用する際に戸惑う可能性もあります。
アメリカの医療制度は、保険加入状況が子どもの入学に影響したり、歯科・眼科は保険プランが別になっていたりとシステムが独特です。渡米する際に知っておくべき「医療に関する注意点」として、3つのポイントを解説します。
12-1.子どものかかりつけ医がいなければ学校に入れない
子どもをアメリカの学校に入学させる場合、入学書類にかかりつけ医の連絡先とワクチン証明の提出が求められます。
特に、子どものワクチン接種に対しては非常に厳しいルールがあります。公立学校に入学する際はこれまでに行ったワクチン接種のすべての履歴を、子どものかかりつけ医から提出してもらわなければなりません。
かかりつけ医の連絡先や、ワクチンの証明書で何らかの項目に抜け・漏れがあると、入学後に新たに接種するよう催促されます。きちんと摂取をして規定を満たさなければ、義務教育が受けられない、つまり入学することができないというケースも考えられます。
また、健康上の理由などでワクチンが受けられない、もしくはスケジュールが遅れている場合は、その旨を主治医に書いてもらわなければなりません。
子どものかかりつけ医(小児科の主治医)の設定は極めて大事です。子どもがきちんと学校に通えるよう、なるべく早めに済ませておきましょう。
12-2.歯科と眼科は別プランの加入が必要となる
アメリカの医療保険は、日本と違って独特なシステムであることが特徴です。ここまで解説していた「医療保険」は、内科医などの場合であり、歯科と眼科は別プランの加入が必要となります。当然、別プランである歯科・眼科プランに加入する際は別料金です。
最も安い部類の保険は歯科・眼科プランともに、年に1~2回の検診程度しかカバーできず、治療や根幹手術の費用は実費となるケースもあるため要注意です。歯に問題がある人や、新しいメガネが必要な人は、高額な費用が必要となる、もしくはスムーズにできない可能性があります。また、アメリカでは処方箋がなければメガネを作ることもできません。
そのため、日本である程度治療してからアメリカに引っ越すか、一時的な日本への里帰りの際に、集中して治療を行うというアメリカ住まいの日本人も多く存在します。
12-3.アメリカ国内で引っ越す際は過去のデータを転送してもらう必要がある
かかりつけ医の設定の手続きは、アメリカ国内で引っ越した場合もまた一から始めなければなりません。
実際にアメリカ国内での引っ越しが決まったら、すぐに現在のかかりつけ医や専門医から、引っ越し先のかかりつけ医候補をおすすめしてもらったり、データ(カルテ)を送ってもらったりしましょう。
転職などで保険会社が変わる場合も、新しい保険でカバーされる医師の調査からまた下調べを始めなければなりません。特に子どもの場合、予防注射の履歴はどの州に行っても非常に重要となるため、必ず控えておきましょう。
13.【豆知識】複雑なアメリカの医療費に困らないためには?
ここまで紹介したように、アメリカの医療費は日本と比べて非常に高額であることが有名です。ある程度知っているつもりでも、実際にアメリカで医療にかかってから医療費を請求されたときに驚愕してしまうこともあるでしょう。
最後に、複雑なアメリカの医療費に困らないためにあらかじめ知っておきたい「豆知識」を詳しく解説します。
13-1.保険会社のアカウントをこまめにチェックする
医療保険を利用して診療・治療を受けた場合は、保険会社のアカウントをこまめにチェックしておきましょう。
医療保険を利用して医師にかかると、後日保険会社のアカウントにその記録が反映され、保険会社が清算を終わらせます。また、受けた医療行為の記録も反映されます。自分が受けた医療行為の項目は、この記録で確認できます。
アメリカでは、まれに受けていない医療行為が項目に含まれていることがあります。保険会社のアカウントをこまめにチェックすることで、受けていない医療行為を発見することができ、かつ保険会社に報告してなぜ請求に入っているのか追求することが可能です。
13-2.保険会社から届く「EOB」をしっかり確認する
EOBとは「Explain Of Benefit」の略称で、患者である自分が受けた医療行為の内訳の説明・明細のことです。EOBに記載されている項目は、医師が保険会社に請求した医療行為となるため、コーペイ以外にも検査や定期検診などといった項目が含まれます。
歯科における定期検診の場合、レントゲンが1年に1回、クリーニングが1年間に4回受けられるなどのプラン内容がきちんと使われているか、無料で受けられるかかりつけ医の定期検診項目をすべて受けることができたかなどを照らし合わせることにも役立ちます。
病院にかかったあとは、EOBに記載されている内容と実際に受けた内容に相違がないか、忘れないうちに毎回確認することがおすすめです。
13-3.請求書が届いても費用はすぐに払わない
前述のとおり、アメリカの病院では診察前にコーペイを払うだけで、検査費などの請求書は後日送られてくる仕組みです。事務の作業によっては、項目ごと・ドクターごとに請求書が別々に送られて来る場合もあります。
慣れないうちは、次々と送られてくる請求書に煩わしさを感じるでしょう。しかし中には、保険会社の負担額を考慮していない「単純な報告書」であるケースもあります。
実際に医療費を支払うべき請求書は、「最終」の請求書のみです。そのため、請求書が次々と送られてきてもすぐに払わず、まずは落ち着いて確認することが必要です。保険会社のEOBと病院からの請求書を照らし合わせながら、しっかり確認しましょう。
また、納得のいかない額での請求書が届いたら、問い合わせ先の電話番号に連絡し、該当の請求書に記載された請求額は最終決定なのか、あるいはこれから最終の正式な請求書が送られてくるのかを必ず確認してください。
13-4.仮の清算や間違いで請求書が届いた場合はすぐに確認する
アメリカでは、数年前の払ったはずのコーペイなど、誤った請求書が送られてくるケースもあります。不当な請求は、当然支払う必要はありません。保険会社にすぐ電話をして、不当な請求であることを伝えましょう。また、きちんと対処してもらうためにも、コーペイやオンラインでの支払いのレシートは永久保存しておくことがおすすめです。
経済的に払えるゆとりがある方は、誤った請求書をきちんと確認せずに払ってしまうケースもあります。しかし、不当な請求を間違って払ってしまうと、取り返すにもまた時間とエネルギーを使うこととなり、諦めるというケースも多いのです。
また、請求書をすぐに確認し、しかるべき対応をとらなければならない理由として、アメリカならではの「クレジットスコア」という信用の得点制度が大きく関係します。
アメリカでは、毎月のローンの支払いや医療費の滞納などがある場合、信用の点が下がります。信用の点が低ければ、家や車などの大きな買い物をする際に、ローンの利率が上がる、もしくは審査が通らないなど、消費者にとっては不利になるシステムがとられています。そのため、アメリカでは多くの人が、医療費の請求書がきたら遅れずにすぐに払うことを心がけています。
しかし前述のとおり、不当な請求はそもそも払う必要がありません。あまりの高額な請求の場合はすぐに保険会社に電話しましょう。
「その日は医療にかかっていない」
「これでは破産してしまう」
「不当であることを認識したうえで、請求を取り下げないなら訴える」
上記のように、堂々と対処をすれば、ディスカウントしてもらうケースも多くあります。医療費における不当な請求がほとんどない日本人にとっては厄介であり、電話での交渉はハードルも高いですが、実際にアメリカでは日常的に行われている方法です。
まとめ
アメリカの医療制度は日本と多くの違いがあります。特に大きな違いは、アメリカは国民皆保険がないことです。現役世代の多くは民間医療保険に加入しており、プランごとの保険料を払っています。加入プランによって医療費の自己負担額・割合が大きく変わることも特徴です。
日本からアメリカへ渡航する際は、民間医療保険に加入しなければ不便です。アメリカにおける医療制度や医療の受け方・注意点を踏まえ、自分に合った医療保険に加入することで、渡航後の病気やけがに備えることができます。
また以前の記事で、アメリカで常備したい市販薬について紹介しています。合わせて参考にしてください。
https://www.hanacell.com/users/america/over-the-counter-drugs-in-the-us/