これからアメリカに旅行や移住で行く方は、米国の文化や生活習慣などを不安に思う方も多いかもしれません。
この記事では現代のアメリカのリアルな文化とそれがどのような歴史から来ているのかを、多民族国家であることや多様性(ダイバーシティ)などにスポットを当てつつ詳しく掘り下げて紹介します。
1. アメリカが多民族国家になった歴史
1-1. 「アメリカ人」という言葉にはどんな意味がある?
1-2. アメリカ人も憧れる「アメリカ人」の姿とは?
2. 多民族国家だからこそ? アメリカで幼い頃から教えられる自己責任・個人主義
2-1. アメリカで「和を保つ」が通用しないのはなぜ?
3. 多民族国家アメリカではTPOをわきまえた話し方が大切
3-1. アメリカ人はストレートにものを言うって本当?
3-2. Name Callingに注意
1. アメリカが多民族国家になった歴史
アメリカと日本で最も違う点は何かといったら、日本がほぼ単一の民族の集団なのに対し、アメリカは多民族で成り立ち、そして現在に至るまで広く移民を受け入れる姿勢をとっている国家という点でしょう。
学校や職場などで周りのほとんどの人々が同じ人種であることは、アメリカではなかなかありません。
アメリカはイギリスの植民地としてイギリス人が開拓・定住し、独立、建国しました。その後も引き続き外国から広く移民を受け入れ、現在は様々な人種・文化の人たちが住んでいます。
彼らの先祖はヨーロッパ各地の出身の人々、奴隷としてアフリカから連れられてきた人々、東海岸のカナダ寄りの地域ではフランスから来たカナダ系の人々、ミシシッピ川以西ではフランス領、フロリダ、テキサスなどの南部ではスペイン領であった過去からヒスパニック系の人も多く住んでいます。
一言に「アメリカ人」といっても特定の肌の色や文化、宗教を持つ人々ではありませんし、ルーツや家庭の文化などによって価値観も十人十色で異なります。
1-1. 「アメリカ人」という言葉にはどんな意味がある?
日本では大多数の見た目が「日本人」が大半。何気なく「日本人」と言うときは、「日本国籍を持ち、両親もそろって日本人」が前提になっていることがあります。日本における外国人(外国で生まれ、日本に移住してきた人たち)は2020年現在わずか2%と言われているように、移民を受け入れるようになった現在でも外国出身の方は非常に少ない環境です。
対してアメリカは移民として住んでいる(アメリカ国籍に帰化していない)人たちが14%ほどいると言われています。(2019年)
現在の米国では「アメリカ人」という言葉には、人種や文化でカテゴライズするような意味はさほどなく、「自由の国アメリカに住めて幸せである」と言った愛国心の表れや、「米国籍を持っている、市民(Citizen)である」といった法的なステータスを意味することが多いです。
また、これには先ほど説明した移民が多い背景があるため、「米国出身なのか、それとも移民として滞在しているのか」という響きが含まれます。
黒人、アジア人や外国語を話すアメリカ市民に対し「アメリカ人か?何人か?出身国はどこか?」といった質問をした場合、「違法移民ではないか?」という意味を含んでいると勘違いされたり、差別とみなされる可能性もあります。昨今は一部の人の間で白人以外を差別する人もいるので、このような聞き方をしないよう、多くの人が配慮して話すようになっています。
1-2. アメリカ人も憧れる「アメリカ人」の姿とは?
このように、アメリカでは多数の人種や文化が混在するので、周りにはいろいろな人がおり、見た目や行動など何かを持って「アメリカ人」とみなせるようなスタンダードはありません。
しかし、「アメリカ人」という言葉を聞いて、明るい、豪快、おおらか、パーティー好きなどの国民性や性格が浮かぶ方もいると思います。
独立記念日にはバーベキューをしてワイワイ過ごし、夏休みはキャンピングカーを借りて家族旅行、奥さんにサプライズで車をプレゼントする、大晦日には寒空の中大勢がカウントダウンに出かけて日付を跨いで遅くまで盛り上がる。これはもちろんアメリカ生活の一部ですが、テレビや映画で見るこのような風景は、アメリカに住む人たちも「憧れる」理想像でもあります。
2. 多民族国家だからこそ? アメリカで幼い頃から教えられる自己責任・個人主義
アメリカで生まれて育つと、小さい時から学校や家庭で「あなたはどう考えるのか」、「あなたのオリジナルのユニークなアイデアを言って」など、個々が違うことは当たり前で、それは良いものだとして育てられます。
日本では幼少の時から周りと歩幅を合わせ、空気を読み、雰囲気を乱さないなど、暗黙のルールを破らないことが美徳とされています。学年が上になるにつれ「ひとりひとり違って良い」と学んだり、就活の時などには「あなたの売りは何か」などと聞かれますが、就活の年頃に突然「オリジナリティを出して」と言う展開には混乱してしまう人も多いのではないでしょうか。
アメリカでは「他人の考えを尊重する、自分にされて嫌なことは他人にもしない」などを、子供の頃からいろいろな経験を通して学校や家庭で教わります。
私が個人的に面白いと思ったのは、良かれと思って友達のトラブルに介入して仲裁をしようとした際に、アメリカの先生方は「それは当人同士が解決するべきことであって、関係のないあなたはわざわざ巻き込まれなくても良い」と、あくまでも当事者の責任であることを子供達に教えていることでした。
2-1. アメリカで「和を保つ」が通用しないのはなぜ?
米国の場合、西洋由来の個人主義が多くの人の根底にあります。そして「自分の意見を持つ」ということは、「自分の意見を口に出して他人に伝えなければ誰も察してくれないのだから、主張すべき場面ではきちんと主張する。主張しないと自分の権利が侵害される場合がある」という考え方と表裏一体となっています。
日本のように他人の立場や要求を察して行動してあげるということは、アメリカでは必ずしも美徳ではありません。それぞれが自分の範囲には責任を持って、自分のことは自分でする、他人に依存しない、他人に気を遣わせない、他人が助けを求めた時に対応する、ということがしっかりとした大人という考えがあります。
これは、日本人からしたら良心や善意とのバランスが難しく、理解して実践するのに非常に時間がかかることでしょう。理解できていないうちは、なぜアメリカの人はこんなに他人の気持ちを汲まずに自分本位に行動するのだろうと目に映るかもしれません。
しかし、米国人には、自分の幸福の追求は自分の責任といった発想があるので、先ほどの個人主義と相まって、基本的には自分は自分、他人は他人、それぞれが違った利益を追求しても良いと言う前提のもとに行動します。
3. 多民族国家アメリカではTPOをわきまえた話し方が大切
日本語と比較すると、英語には確かに尊敬語・謙譲語・丁寧語というものはありません。しかしながらきちんとした言葉遣い、相手を敬う、思いやる、そして品のある話し方というのは存在します。日本の義務教育内の英語の授業ではなかなかここまで教わりませんが、英語の世界も知れば知るほど、なかなか奥が深いです。
英語でも、丁寧な話し方、目上の人への礼儀正しい話し方、乱暴な言い方、子供っぽい話し方、きちんとしたメールや手紙での書き方、カジュアルな口語での書き方というのはあります。
TPOで異なる英語というのは単語の選び方や文体の使い方など、かなり英語を使いこなせるように勉強したり、経験がないとできないかもしれません。勉強法としてはビジネス英語のボキャブリーや文体を注意深く観察するとか、新聞を読むなど普段自分が話さない・書かないタイプの英語に触れることがおすすめです。
また、Fワード、Nワード、Dワードなど、映画や音楽などでは頻繁に見聞きする汚い言葉も実際の使用は会社によっては厳重注意になったり、処罰があったり、最悪クビになる場合もあります。ネイティブスピーカーのように話したい、ちょいワルがカッコイイと勘違いして、職場や学校で使わないように注意が必要です。
3-1. アメリカ人はストレートにものを言うって本当?
よくアメリカ人は思ったことをそのまま包み隠さず言うと思われがちですが、現代のアメリカ人は、言葉の選び方、相手を傷つけない気配り、そして人種・職業・宗教・年齢・性別などポリコレに配慮した話し方をします。これはある意味、日本人よりもかなり気を遣っていると感じます。
例えば人を褒める際も、顔が美しい、体型・皮膚の色などの身体的特徴が美しいなどと褒めると、性的な関心を告げられているのではないか、直接的すぎるなど、非常識に捉えられてしまいかねません。その代わりに、髪型が素敵だ、洋服の色が素晴らしい、バッグと靴のコーディネートが最高だなど、センスを褒める傾向にあります。
セクハラ的な意味に取られないよう、「下心やパワハラの要素はないです、あなたの気持ちが上がるように褒めています」と、あくまでも社交の一環に留める配慮があります。
(家族の場合は直接的に褒めるのでも大丈夫です。)
3-2. Name Callingに注意
ネームコーリング(Name Calling)という言葉を聞いたことがありますか?これは日本にはない概念ではないかと思います。文字通りの「名前を呼ぶ」という意味ではなく、「バカ」「デブ」などのネガティブな単語で相手を呼ぶことを指します。アメリカでは決してName Callingをしてはいけないとされ、家族間でもタブーとされています。
学校などで誰かのことを面と向かってネガティブな単語で呼ぶことはもってのほかですし、たとえ本人がいない場所での陰口であっても、Name Calling 自体が許されない風潮があります。
日本語では感情的に「〇〇ちゃんのバカ!」などと言ってしまってもさほどお咎めはないかもしれませんが、アメリカでは、罵るのは非常にいけないことだと幼い時から教えられます。また、夫婦間の喧嘩であっても、感情的に相手を蔑ろにするような単語を発してしまう場合、DVとみなされる場合もあります。
逆を返して、汚い言葉遣いを平気でする人はよほどあなたに心を許して自然体でいるのか、または汚い言葉を使う自分を他人に見られても気にしない状態である、といえます。
4. 州ごとに文化や法律が異なる歴史的理由
アメリカの歴史は日本と比べれば短いものですが、植民地時代から50州全てが今の状態になるまでの間の紆余曲折は非常に複雑で難解です。米国の一つ一つの州は日本の都道府県とは違い、一つの小さな国家のようであるとも言えます。
例えば現在のフロリダやテキサスのエリアはスペインの領地であった歴史があるため、スペイン由来の文化が今でも残り、そこに住む人々の人口構成にも表れています。
また、奴隷制を廃止するか維持するかで意見が分かれた南北戦争では、南軍(南部の州)と北軍(東海岸から中西部の北部と西海岸の一部に属する州)で対立しました。現在でも政治的な考えが異なったり、宗教感が異なります。このため、4年に一度の大統領選挙の行方は非常に盛り上がりますし、銃規制や中絶をめぐる州ごとの動向には多くの人が注目します。
このように州ごとに法律の解釈や政治的なスタンスや宗教観は異なりながら、アメリカ「合衆国」を作り上げています。州一つ一つの歴史を辿ると、アメリカを理解するのがもっと面白くなりますよ。
アメリカの50州の各州の特徴をこちらの記事で解説しています。合わせてご覧ください。
5. 車社会やインフラがもたらしたアメリカの生活スタイル
米国は「車社会」。実際はどの程度車が必要な暮らしをしているのでしょう。これは都市や州によるところが大きいですが、地下鉄、バス、電車などの公共交通システムが整い、自家用車を持たなくても不自由なく暮らせる街というのは、米国の中ではニューヨーク、ボストン、ワシントンD.C. 、シアトル、サンフランシスコの中でも一部、などごく少数の地域に限られます。
アメリカでは、日本のように徒歩圏内にコンビニがあったり、バスに乗って電車に乗って通勤したり、ちょっと歩いて、または自転車で商店街や郵便局に行くということは、一般的ではありません。
なぜかと言うと、ほとんどの地域では歩いてどこかに行くことを想定したまちづくりがされておらず、徒歩や自転車で目的地に行けるような歩道や道路の作り方がされていないからです。
アメリカでは、通勤、子供の送迎、買い物に、ほとんどの地域で自家用車が必要となります。大人一人につき一台は必要となるので、総合的に見ればかなり車のための出費が多いと言えます。子供たちは親が送迎しなければ公園にも、お友達のところにもいけないのが前提で、自転車で買い物に行ったり、遠くまで子供だけで遊びに行くのは一般的ではありません。
郊外に住む人々は週に1回ほど、車で買い出しに行き、1週間の食材や生活用品を一気に買い溜める傾向があります。日本のように住宅地のすぐそばに便利なお店があるわけではなく、住宅地からある程度離れた地区にショッピングモールやスーパーなどがあるので、車でそこに行く必要があります。
これは共働き世帯の増加のために週末に郊外の大規模店舗に行って一気に買い物を済ませる合理的なものにシフトしたことや、郊外に建売販売の住宅地がたくさんできたことなどが理由だと言われています。
5-1. アメリカが車社会になった歴史的理由
日本の場合は車が存在しない大昔から人が街を作り、その延長上に道路や建物を整備して今の街があるケースが多いですが、アメリカでは近代になってから人為的に「ここを街の中心としよう、こういう機能はここに置こう」など、まっさらな土地に街を築いています。アメリカの街や都市は計画的に作られた場所がほとんどです。
1908年に大量生産体制のもと作られたT型フォードの登場を皮切りに1930年代半ばには自家用車の世帯普及率が50%を超え、1950年から60年代には広くハイウェイ網(高速道路)が発達し、アメリカ中の都市がつながりました。
現在のアメリカの生活スタイルは、車の普及などに代表されるテクノロジーやインフラの整備の歴史が大きく関与しています。
アメリカで車を運転する方法についてはこちらの記事で紹介しています。合わせてご覧ください。
まとめ
いかがでしたか?知れば知るほど奥が深いとわかるアメリカの文化や歴史ですが、実際に住むと今回の記事でお伝えしたアメリカの雰囲気や多様性が伝わってくるかと思います。皆さんのアメリカ旅行・滞在が楽しいものになりますように!
また、以前投稿したこちら記事では、アメリカの文化や生活習慣についての様々な知識を紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。