アメリカに滞在できるビザには、さまざまな種類があります。しかし、いずれのビザも滞在の期限があり、雇用してもらった会社を通じたビザであるため、有効期限はその会社に働いている間だけとなる制限があります。その点、アメリカの永住権「グリーンカード」は滞在期間の期限がありません。
今回は、アメリカの永住権「グリーンカード」と移民ビザの違い、アメリカの永住権を取得する5つの方法、永住権(グリーンカード)と市民権の違いについて、わかりやすく解説します。
1.アメリカの永住権「グリーンカード」とは?
グリーンカードとは、アメリカの永住権(Permanent visa)を指します。グリーンカードは緑色の部分もありますが、基本的に今のカードは白色です。1940年ごろのグリーンカードは緑色だったことから、グリーンカードと呼ばれるようになりました。
アメリカの永住権を取ると、アメリカの出入りが自由になり、滞在期限もなく、職業も雇い主に縛られません。また、税金を納めたり、空港でアメリカに戻ってきたときは市民と同じ列に並ぶことができたりするなど、アメリカ市民と同じようにアメリカで生活をすることができます。ただし、アメリカ市民と違う点は、投票できないこと、陪審員を務めることができないことです。
1-1.グリーンカードと移民ビザとの違い
グリーンカードは、アメリカ国内のみで発行や更新ができます。では、アメリカの永住権をアメリカ国外から申請するにはどうするのでしょうか?
アメリカ国外から永住権を申請する場合は「移民ビザ」という永住権の資格を持つビザを取得します。移民ビザとは、米国に無期限で居住できるビザです。移民ビザでアメリカに入国した後、アメリカの住所に郵送でグリーンカードを受け取ります。
2.アメリカの永住権を取得する5つの方法
アメリカで永住を考えている場合はグリーンカードを取得する必要があるものの、グリーンカードは無条件に取得できるわけではありません。グリーンカードを取得するためには、一定の条件を満たすことが必要です。
ここからは、現行の米国移民法に基づき、永住権の取得方法を5つ紹介します。
取得方法1.アメリカの国籍を持つ人と家族になる
アメリカ人と結婚した場合は、アメリカ人の配偶者がスポンサーとなってグリーンカードを申請します。アメリカ人は配偶者だけでなく、子供、両親、兄弟、姉妹などのスポンサーとなってグリーンカードを申請することもできます。
永住権の取得条件や取得期間は、アメリカの国籍を持つ人との家族関係によって異なります。グリーンカードの取得を検討する場合は、以下の表を参考にしてください。
国籍者との関係 | 配偶者 |
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取得条件 | アメリカ人と結婚している |
取得期間 | 約1年半 |
国籍者との関係 | 子供 |
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取得条件 |
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取得期間 |
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国籍者との関係 | 両親 |
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取得条件 | 子供が21歳以上のアメリカ人である |
取得期間 |
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国籍者との関係 | 兄弟姉妹 |
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取得条件 | 兄弟姉妹に21歳以上のアメリカ人がいる |
取得期間 |
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取得にかかる期間や、取得できる永住権の有効期限は、本人の状況によっても変わります。たとえば、アメリカ人と結婚していても、結婚後2年以上経過していない場合、取得できる永住権は2年間の条件付きです。2年間の有効期限が過ぎたら、その後10年間の権利に切り替えることができます。
アメリカ人と結婚して永住権を取得するためには、書類の提出と面接の通過が必要です。面接では、結婚が偽装でないことを証明する書類が必要です。
ちなみに、1990年の映画「グリーンカード」では、初対面の2人がお互いの利害のために結婚しましたが、面接のシーンなども出てきて面白かったです。機会があったら見てみてください。
取得方法2.アメリカの企業に投資する
取得方法2.アメリカの企業に投資することで永住権を取得する方法は、EB-5プログラムと呼ばれています。自分で投資して永住権を取得できるため、スポンサーを作る必要がありません。
EB-5プログラムには、以下の2つの投資プログラムが存在します。投資による永住権の取得に興味がある人は、それぞれの特徴と取得方法を把握しておきましょう。なお、各プログラムの投資額は2021年2月時点における情報を参考にしています。
●EB-5投資永住権プログラム(メインカテゴリー)
アメリカにおける移民法上の規定にあるプログラムであり、アメリカ国内における地域・企業の発展と雇用促進を目的としています。EB-5投資永住権プログラムの利用により永住権を取得するためには、以下の2つの条件をともに満たす必要があります。
- アメリカ国内の地域に180万ドル以上の投資を行う
- 2年以内に10名のアメリカ人を直接的に雇用する
●EB-5地域センタープログラム(期間限定優遇プログラム)
EB-5投資永住権プログラムの規定を緩和する形で導入されたプログラムであり、最低限必要な投資額が半分となっていることが特徴です。投資対象は移民局によって雇用促進地域と指定された地域センター内に限られるものの、条件であるアメリカ人の雇用は間接雇用も認められています。EB-5地域センタープログラムによる永住権の取得条件は、以下の2つを満たすことです。
- アメリカ国内で失業率が全国平均失業率の150%を超える地域に90万ドル以上の投資を行う
- 2年以内に10名のアメリカ人を直接的または間接的に雇用する
取得方法3.DV抽選永住権に当選する
DV抽選永住権(グリーンカード抽選プログラム)に当選することでも、永住権を取得することが可能です。
アメリカへの移民率が低かった国々の人々を対象に、年間5万件の永住ビザが発行されます。過去5年間に5万人以上の移民がアメリカに移住した国は、このプログラムから外されます。2019年はカナダ・イギリス・インド・韓国などが外されましたが、日本はこれまで外されていません。
応募は一年に一回だけとなり、当選者はコンピューターでランダムに選ばれます。他の方法と比較すると簡単ではあるものの、運が必要となる取得方法です。
取得方法4.アメリカのスポンサーを得る
特殊な職務・職業に就いている人は、アメリカ人の雇用者・会社などをスポンサーとすることで永住権を取得できます。対象者となるケースは、以下の3カテゴリーです。
●EB-1-2
専門分野で過去3年以上の教職・研究の経歴を持ち、世界的に知られる成果を上げた教育者・研究者が該当します。
●EB-1-3
アメリカに親・子・系列会社がある会社の役員または管理職を務める人が該当します。以下の2つの申請資格を満たすことも必要です。
- スポンサーとなる企業で、過去3年のうち1年以上を役員または管理職として勤務している
- アメリカ国内の親・子・系列会社で、同様の業務を行える
●EB-3
技能労働者・専門職を対象としたカテゴリーです。それぞれ申請する職種に特定の経歴または学歴が必要であり、申請者が経歴または学歴の条件を満たしていることが求められます。
たとえば、まずは非移民ビザのH1-Bを会社がスポンサーとなり、取得します。H1-Bは6年間の期限があるため、その間に会社がグリーンカードを申請します。6年間が過ぎても、グリーンカード申請中は有効期限を数年間延長できます。
EB-3などは、アメリカ内でアメリカ人の人材が不足している、またはアメリカ人ができない仕事をこなせることを証明するため、労働認定証(レイバー・サーティフィケーション)の所得が必要となります。したがって、アメリカのスポンサーを得る方法では、他の方法と比べて長い期間がかかる点に注意してください。
ちなみに、筆者はH1-Bからグリーンカードという方法だったのですが、一番気がかりだったことは「送られてくる書類が郵便中になくならないか」です。FedExやUPSなどは家の前に置いていくことがあるため、郵便のCertified mailを利用しました。弁護士から書類が送られてくる予定でしたが、いつ発送していつ届いたか追跡できるCertified mailを使ったにもかかわらず、書類が一時期どこかへ行ったことがありました。数週間後に書類が届き、郵便局からは「配達した人が休暇を取っていたから」という説明を受けましたが、「であれば他の人が代わりに配達できなかったのか」と、なんとも納得いかなかったことを覚えています。
取得方法5.自分の才能や能力を活かす
科学・芸術・教育・事業・スポーツにおいて才能のある人はEB-1-1ビザを、教授・研究家など世界に認められている人はEB-2ビザを取得することで、永住権を獲得できます。
資格審査と事務処理で終わるため、家族がスポンサーになって申し込む方法と同じくらい早く永住権を取得できます。
3.アメリカでの永住権(グリーンカード)と市民権の違い
グリーンカードと同様にアメリカに永住できる権利としては、市民権があります。市民権とは、アメリカを構成する市民に対して付与される社会的地位です。アメリカの領土内で出生すると自動的に取得できるものの、外国人が取得することもできます。
永住権と市民権は兵役登録の義務があることは共通であるものの、取得方法や取得後の権利・自由度において相違点のあることが特徴です。アメリカで永住できる権利を取得したい人は、永住権と市民権の違いを知っておきましょう。
以下では6つのポイントに分けて、永住権と市民権の違いを解説します。
3-1.取得条件・費用
永住権の取得方法はすでに紹介したように、アメリカ人の永住権スポンサーを通したり、企業への投資や抽選をしたりなどの方法があります。永住権の申請料は1,000~3,000ドルであり、取得方法によって異なることが特徴です。
一方、市民権を取得する場合は、前提として以下の必要条件を満たさなくてはなりません。
- 18歳以上である
- 永住権を取得しており、取得後5年(アメリカ人の配偶者として取得した場合は3年)が経過している
- 取得後5年のうち30か月(3年の場合は18か月)以上、アメリカで居住している
また、市民権は申請料として675ドルが必要です。申請の際は面接・指紋押捺・写真撮影・テストも受けます。
3-2.選挙権の有無
アメリカの永住権を取得しても、アメリカの地方・州・連邦における選挙権・被選挙権は付与されません。永住権に選挙権が付いていない理由は、永住権取得だけでは国籍が変わらないためです。
市民権を取得した場合はアメリカに帰化したことになるため、本人もアメリカ国籍となり、選挙権・被選挙権が付与されます。ただし、日本人がアメリカに帰化申請する場合、日本国籍は離脱となるため、日本における選挙権は保持できません。
3-3.職業選択の自由
永住権・市民権取得者のどちらも、基本的には自分が望む職業に就くことが可能です。ただし、特定の職業・職務に就労する場合は、市民権の取得が前提条件となっているケースもあります。
以下は、市民権取得者でなければ働けない職業・職務の一例です。
- 政府機関の仕事(ホワイトハウス・CIA・FBIなど)
- 国家の機密事項や安全保障を扱う職務
- 国家公務員や地方公務員
民間企業であっても、永住権取得者は政府機関と連携する業務で働けないなどの制限があるケースも見られます。
3-4.渡航制限・更新の有無
永住権を取得した状態で1年のうち半分以上をアメリカ国外で過ごすと、永住の意思がないと見なされ、永住権を剥奪される可能性があります。市民権を取得している場合は、海外滞在の期間によって市民権が剥奪される恐れはありません。
また、アメリカの永住権は10年で有効期間が切れます。永住権を保持するためには、10年に1回のサイクルで更新が必要です。市民権には有効期限が存在せず、更新の必要はありません。
3-5.家族の呼び寄せ
海外にいる家族とアメリカで一緒に暮らしたい場合、永住権と市民権では家族の呼び寄せやすさが異なります。永住権取得者に比べて、市民権取得者はスポンサーとしての優先順位が高いためです。
たとえば、自分の配偶者と子供を呼び寄せたい場合、市民権取得者の配偶者と子供(21歳以下かつ未婚)は第1優先となっています。手続きにかかる申請期間は4か月~1年が目安です。
一方、永住権取得者の配偶者と子供(21歳以下かつ未婚)は第3優先となっています。申請手続きには3年以上かかるケースが多く、市民権取得者との差は歴然です。
3-6.強制送還の有無
永住権取得者が以下の2つのケースに該当する場合、国籍のある本国へ強制送還される可能性があります。
- 重罪を犯す
- 市民権固有の権利を濫用する
市民権固有の権利とは、自分をアメリカ国民と名乗ったり、選挙に参加したりすることです。永住権取得者はあくまでも入国許可証を得て滞在・居住している外国人であるため、市民権固有の権利を行使できません。
市民権取得者はアメリカ国民であり、国籍をアメリカに置いています。そのため、アメリカ以外の他国に強制送還されることはありません。
4.永住権申請から取得まで
グリーンカードの申請方法や取得までの期間は、グリーンカードのカテゴリや自分の状況によって異なります。
近親者や家族などが米国市民の場合、米国市民権移民局USCISの承認を得て、永住権の登録をUSCISに行うか、米国外に住む場合は領事館手続きが必要になります。
取得までの期間は米国在住者との関係によって大きく変わり、例えば配偶者の場合であれば、約1年半ほど取得までに要すると言われています。
雇用のためのグリーンカードを取得する場合には、条件によってUSCISの承認とともに雇用主による労働証明書が必要になる場合があります。
米国の労働省に、労働認定手続きを行ってもらう必要があるためです。
特殊な技能や高度な学位を持つ場合や、投資家としての場合は労働証明書を必要とせず、優先分類として早めの取得が可能になることもあります。
他には、DV抽選永住権と呼ばれるグリーンカードの抽選プログラムに応募することも取得への道のひとつです。
一年に一回、一ヶ月ほどの応募期間に応募するだけで簡単に申請できますが、当選者は完全にランダムで選ばれるため運がなければ取得できません。
どの方法でも取得には書類を揃えての申請・審査と時間がかかりますね。
まとめ
アメリカの永住権はグリーンカードと呼ばれ、取得することでアメリカに永住して生活することができます。アメリカの永住権を取得するためには、アメリカ人をスポンサーにしたり、投資や抽選したりといくつかの方法があるため、自分に適した方法を選択しましょう。
永住権を取得して特定の条件を満たすと、市民権の取得申請ができます。申請料はかかるものの、永住権に比べてさまざまなメリットがあるため、アメリカで永住したい人は市民権の取得も目指すことを検討してもよいでしょう。
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